日本食レストランで起業

 

ドイツで日本食レストランを開業する(7)

umeboshi rice海外で利益を上げる和食の形

経過は知りませんが,ユネスコ無形文化遺産にまで登録されてしまった和食。しかし,その世界に認められた「質」と「特徴」を備えた本物の和食を海外,ドイツで提供するレストラン業として成功,つまり利益を上げるのは非常に困難なことだと容易に想像がつきます。

日本の都市では,誰もが認める優れた品質を備えた日本料理屋が数多くあります。その1軒でも,そのままドイツに持ち込んだ場合,どうなるでしょう。食材や調理人の調達の困難さや「モノ・ヒト・税金」の高いコストが反映された超高い品書きにならざるを得ません。一歩譲歩して,日本で「まぁ良い」と認められているレストランがドイツに進出した場合でも,同じような状況で苦しむと察します。

週日のランチに支払う,支払ってもいい金額は99.9%の人たちにとって限られています。経験からざっと想像すると約9割は10ユーロ以下,残りの人たちでも20ユーロ以下だと思います。わずか1%以下の裕福層や企業の幹部が,自分または会社の金で,料金を気にせず高級レストランに行くかも知れませんが,常連になる客は少なく,ましてや日本食レストランのランチに一ヶ月に一回でも40ユーロ(5千円)喜んで払う人たちはいないと思った方が無難です。そこで,多くの日本食レストランがランチの値段を下げるために食材(原価)を落として,いや工夫して,苦労しているのが分かります。
そして利益を上げるのはディナーにかけ,ランチは常連客の確保にかけることになります。
以上のような状況を脱皮できるほどの大都会はドイツにはないと思います。ですから,本物の和食高級料理を提供しつつ,利益を上げられるチャンスがあるのは,ヨーロッパではロンドンとパリ以外にはないかも知れません。

ドイツで儲ける和食の献立

人間国宝級の和食の美でつつまれた日本食レストランを目指すのでなければ,儲かる和食献立は結構あるようです。
やはり日本食の人気はイタリアンほどではありませんが,一時的なブームを超えた本物に近づきつつあります。多くのアジア系の食堂が,寿司・ラーメンをはじめとする日本食メニューがあることを大きく宣伝していることでも分かります。

売れ筋と考えられている日本食メニュー

  • すし(細巻き,カリフォルニア巻き,各種裏巻き)
  • ラーメン
  • べんとう(おかずの原価を抑えた幕の内弁当)
  • 焼き鳥
  • ぎょうざ
  • すし(江戸前,ちらし寿司など)
  • お好み焼き
  • 焼肉

結局のところ,握りずしを除くと,四季感あふれる季節の野菜と新鮮な食材を駆使した,栄養性と質の高い自然料理などではなく,日本ならばどこの駅前でも,どこの家庭でも食べられるような庶民料理ばかりです。これらの料理の仕込みにしても,日本人が主な顧客の店や限られた少数の日本食レストランを除くと,良質の昆布や鰹節を用いた出汁や取立ての野菜などを使用することはまず考えられません。

以下,和食を武器として「儲ける」献立および方法について考えてみます。

sushi 1寿司とライス  -  SUSHI & REIS

これからもさらに人気が上昇して,ピツァのような位置を獲得するかどうかは分かりませんが,SUSHI の人気は異常とも思えるものがあります。SUSHI がなんたるかも分からないままで,説明もないまま,みんな何となく分かったような気になって,当事者の SUSHI 自身の方もまぁ別に気にすることはないんじゃないの,と居座ってしまったような風があります。

しかし,この寿司ブームで儲けている多くは,現地人やアジア人ですから,寿司料理で利益を上げたいならば,人気の秘密と現状の把握が欠かせません。
スーパーマーケットの寿司(5-7 €),駅の構内の寿司(5-10 €),街中に散在する寿司屋の寿司(10-20 €),どれをとっても泥棒としか思えない質と値段です。
それでも何となく繁盛している(ような)理由を考えてみると,ごはん(スシ飯),そしてそれを指でつかんでそのまま口に入れられることだと思います。もちろん,スシ飯ですら出来は悪いのですが,日本のスシ飯を食したことがない人たちにとっては十分です。世界中で食されている米は,ドイツでもジャガイモやパスタとならぶ主食の定番。しかし,これまでは,ライスはくっついてはいけない,パラパラでくっつかないライスが良質の米,そして炊き方もそうあらねばならない,というのが調理法の基本のように信じられてきた感があります。また,炊飯器を持っている家庭は非常にめずらしいですから,ほとんどの人たちは,いわゆる「ごはん」を炊くことはできません。炊飯器を置いている電化製品の店やデパートは稀なので,一般の人たちは炊飯器というものがあることすら知らないと考えていいでしょう。ですから,日本や韓国の料理屋などでごはんを食べた人たちが,じゃ家でも今度ごはんを炊こうと思ってもできない,まず失敗します。普通の鍋でごはんを炊くむずかしさはご存知の通りです。

多くの日本人は,ごはんの味にうるさい。そして確かに,米の品質や炊き方によって,ほんとうにおいしいごはんを作る人たちや料理屋があるのは素晴らしいことです。
しかし,多くの日本人が認める,その「おいしい」ごはんを「おいしい」と思う欧米人は,どちらかというと少数派です。日本食のおいしさを認める欧米の一般人や著名なシェフがいくら日本のごはんのおいしさを強調しても,実際にはなかなか広まっていないと思います。
さすがに日本食レストランで出されるごはんはおいしい。でもその炊き立てのふんわりごはんに,ソース,醤油,具,スープなどをばちゃっとかける欧米人がなんと多いことか。
炊きたてごはんのそのままのおいしさは,まだまだ,欧米に広まっていない,または広まることはない,と考えたほうがいい気がします。
繰り返しますが,いくらおいしい炊き立てごはんでも,多くの欧米人にとって,「ソースや汁をかけたならば,まぁ食べられるライス」なのです。

寿司の話に戻りますが,ドイツ人に魚介類,ましてや生魚という言葉と合わせて寿司の説明をすると,もうそこで半分以上が拒否反応を示し,「なまざかな」が無い寿司なら試しに食べてもいいという少数派が残ります。そして食した後,「うん,また食べたい」という人はさらに少なくなります。
日本食,それも日本で出される江戸前が好きな欧米人も結構いますが,かれらは自分たちが「和食通の少数派グルメ」に属していることで幸福感を味わっているようにもみえます。

ところが,魚介類抜きで,スシ飯を出したらどうなるか。まずどのようなスシ飯でも半分以上のドイツ人に受け入れられます。意見を聞きながら,味を加減するとさらに多くの人たちが納得します。と,信じています。具や形は何でも構わない,まさに自由自在。多くのドイツ人が好き(と信じられている)な酢キャベツでもいいわけです。
ミシュランの星を獲得するようなシェフが作る高級料理に SUSHI のバリエーションを加えることもできるし,ファーストフード(ドイツのマクドナルドは1ユーロから)にさえ立派に挑戦できる SUSHI を提供することも可能でしょう。
>>> Henssler & Henssler - ドイツ人シェフによる洋風 SUSHI の事例

もしそれが事実ならば,そして寿司で儲けたいならば,値の張る新鮮な魚介類を苦労して手にいれて江戸前寿司を提供することは無意味だともいえます。
西ヨーロッパ諸国も同じですが,ドイツで手にいる日本米(カリフォルニア産,スペイン産,イタリア産),米酢,焼き海苔など,寿司飯の材料はすべて安価なので,あとは作るプロセスだけです。味というかトッピングや巻物の中に入れる食材は,要するに何でもいいのです。安い数粒のふりかけ,レタス,チーズ,ドイツの地方の食材,とにかく何でもいいので,数人のドイツ人にいろいろな味をみてもらって決めたらいいと思います。高価な食材は全く使用する必要はありません。
作成過程が決定したあとは機械や道具を駆使して,早く多く作ればいいわけです。

rahmen 3麺類  -  NUDELN

ラーメンは中華麺ですが,どういうわけか本場の在欧・在独中国人が一生懸命に日本風のラーメンを作って,自称,日本のラーメン屋さんとして商売をしています。
ドイツにもやって来たこのラーメンの爆発的な人気についてはあまり分かりません。麺の「ズルズル音」をあまり気にしなくなった西洋人の変わり具合もあるかも知れません。
昔は多くのパイオニア的な人たちが,庶民の日本の味で商売をしようと試みたようです。屋台のおでん屋,どんぶり専門屋,うどん屋,そば屋,カレー屋など。パリに以前あった,ファーストフード的などんぶり専門屋(チェーン?)もあまり長続きしませんでした。

結局,パリ・ロンドンのような大都会ですら,いかなる日本食でも一定以上の数の客を獲得できない,できなかった,ということでしょうか。一度訪れたパリの有名な大阪ラーメンもほとんど日本人客でした。それが近年,といっても1990年代の初旬頃から,一気に日本食,それもラーメンが突出した人気を出し始めました。
うどん,そば,中華そばなどではなくラーメンなのです。

私は自分が分からないので,機会があればドイツ人に聞くようにしています。彼らの意見を通じて少しづつ見えてきたものがあります。

スープ好きのヨーロッパ人

日本でスープというと「コンソメですか,ポタージュにいたしましょうか?」となりますが,欧州・ドイツではいろいろな形のスープやスープもどきの料理があり,とても好まれています。味噌汁などは,東北地方のように具がたくさん入った大盛り味噌汁でない限り,ドイツ人にとっては食事としてのスープにはならないのではないでしょうか。
ラーメンについてドイツ人に尋ねると,まず「食べ応えのある濃い味」が気に入っているようです。次に麺,そして具,ですからドイツ人好みの「食べ応えのある濃い味」さえ作ればいいとも思えますが,ドイツ料理屋にも,イタリアンにも,もちろん中華料理屋にも「食べ応えのある濃い味のスープ」はあるわけですから,日本式ラーメンの人気の秘密にはならない,そんな疑問も沸いてきます。そこで考えられるもうひとつの要素がカウンターです。

カウンターや簡素なテーブルで提供する庶民料理

ドイツにもフランスにも,どういうわけか椅子に座って食事ができるカウンターを備えた食堂はほとんど見たことがありませんでした。いわゆる,Imbiss と呼ばれる軽食堂などの高いバーホッカーとカウンターはありますが,ゆっくりこしかけて食事ができるカウンターのことです。アメリカでは一般的ですが,イタリアなどでもいくつか見たことがあります。ところが今までドイツにもフランスにもなかったカウンター食文化がラーメンを介して一挙に広まった。そんな気がします。

世代の違いもあるかも知れません。カウンターで食するのもなかなかいいじゃないか,と思われ始めたのかも知れません。「外食」という特別なイベントなのに,庶民でも楽しめる,となったのかも知れません。ラーメン屋さんには若い世代が多いこと,会社の幹部級や裕福層などが見当たらないことなどを考えると,まんざら当たっていないこともないでしょう。
ブームはまだ続くのか,飽和状態なのかは分かりません。しかし,原価が安くて,カウンターということもあり客の回転も速いので,リスクが少なく儲けられる商売だとは云えると思います。


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