BAMF(ドイツ移民難民庁)

 

Bundesamt fur Migration und Fluchtlinge Logo w600ヵ月ほど前から毎日のようにニュースで流されているBAMF問題ですが,調査が進むにつれ,本当にスキャンダルといえるほど,政治の醜さも現れ始めた様相です。

そもそもは,2018年4月19日に「移民難民庁ブレーメン局で認定を受けた難民数があまりにも多すぎる」事実に不正があったことが明確になってからです。
そして,翌日の4月20日にブレーメン局長の自宅が捜査され,不正の規模や関係者の正確な情報は徐々に明らかになってゆくなかで,少なくともブレーメン支局で不正が長期に渡り行われていたことは明らかになりました。

移民難民庁(BAMF)とは,ニュールンベルクに中央局を置き,ドイツ内務省(BMI)の直下に置かれた政府機関で,主に,移民難民の保護,社会的な統合,移住,および帰国,欧州諸国との協力・調査などを業務としています。

戦後まもなく設立された時期は,まだ外国からの難民の認定を行う事務所で職員も40名,しかし名称も変え内務省の管理下に置かれるようになった1980年ごろから難民も急増(1980年: 10万人,1990年: 20万人),そしてソビエトの崩壊に伴いドイツ系ロシア人の移民も急増(1992年: 33万人),支局もドイツ全土48ヶ所に置かれ,同時に職員も増えています(1980年: 240名,1993年: 4000名)。

事件の経過

ブレーメン支局では,担当および認定する権利もない難民2000名を2013年から独自に審査し,認定条件を満たさない1400名以上に滞在許可を与えていたことが発覚。
また,現ブレーメン支局長は,ニュールンベルクに勤務していた2014年にも,すでに認定拒否が決定されていた数人のイラク人に独自の判断で許可証を発行,また2015年にはすでにオーストリアで申請が出されていた25名のイラク人に対しても,コンピューターを操作して認定を与えるなどしており,それらの不正行為に対して報告書は提出されていた。

さらに調べてゆくと,今回のブレーメンにおける難民の不正認定は,支局長が示唆するようなシンドラーのリストではなく,職員,難民を支援する弁護士,通訳,その他の人々を巻き込んだ多額の金額が流れた汚職の可能性が高いことが表面化したわけです。

そうなると,当然ながら,なぜそのような不正が長年に渡って可能だったのか? 難民データのネットワークの安全管理は? 難民認定を決定する権限を持つ人のコンピュータは? ブレーメンだけの問題だろうか? など多くの疑問点が出て来ます。

移民難民庁(BAMF)中央局は何も知らなかったのだろうか?
これほどの大量の不正行為に対して,中央局が何も把握していなかったとしたら監理不行き届き,知っていたとしたら不正隠蔽で同犯罪。

そして,内務省には,不正や汚職ではなくても,難民認定プロセスで大きな問題があることは以前から報告が出されていた事実も出てきた。
それらの事実から,内務大臣やメルケル首相の責任だけではなく,問題隠しの疑惑が出てきたわけです。

つまり,ブレーメンだけに目を向けると,ブレーメン支局長,職員,関係者,そして業務管理体制だけの問題ですが,難民がドイツに入国してからの長く複雑なプロセスを考えると多大な問題が改めて浮き彫りになります。

まずドイツにおける難民申請の数。2014年度は平均で毎月2万人,2015年は4万人,2016年は6万人以上,2017年からは2万人弱となっています。

merkel im bamf toonpool.com 2このように,急激に増え始めた難民に対応できない事情を訴える地方自治体や難民移民局の地方支局の声も,2015年8月末から繰り返し言われるメルケル首相の „Wir schaffen das!“(私たちは出来る)の下にかき消されただけではなく,「自分たちで必ず行え」の絶対命令となって末端まで伝えられていった。

現場におけるフラストレーションは,移民難民庁の支局の責任者や末端の職員,そして難民を受け入れる自治体などの生の声を聞くとよく分かる気がします。

ドイツ連邦州の知事や地方局長の「経済的にもマンパワー的にも無理という意見は政府に全く受け入れられなかった」,現場の職員たちの「職場ではいつも怯えている雰囲気があった」,「マフィアのような結束をもった部署」,「職員に対する上司の言い方はまるで尋問」,「旧東ドイツの秘密警察のごとく絶対服従で,従うか去るかの選択しかない」という声が物語っているようです。

今回の難民認定不正と賄賂疑惑によって罷免されたブレーメン支局長曰く,「難民審査システムが正常に機能していないことは多くの職員は理解していた。しかし,それに異議を申し立てることはできないので,不正を知りつつ業務を続けるか,辞めるしかない。今,メディアは私を責めているけれども,深く調査してゆけば,多くの根本的な問題も明るみに出ると思う」

「ドイツは難民を歓迎」という心地良いスローガンに影を与えてはならない

2015年の夏から急激に増え続けた難民に対応するため,政策的には常套手段と異なる国際税務サービス会社やマッキンゼーに顧問として対策を仰ぐことにした,とのニュースも流れていましたが,どのような効果があったのか,フォローニュースは全く聞かれないまま。
5480万ユーロ(約70億円)が移民難民庁(BAMF)によってコンサルティング会社に支払われた記事はありましたが詳細は不明。

2015年,突如の波に対処するために移民難民庁(BAMF)中央局長に指名されたCDUのヴァイゼ氏も,当初,職員に労力的にかなりの負担がかかること,現システムでは処理できない恐れがあることを訴える。しかし,できない恐れは,すでに敗北宣言。それで,審査にかける時間を5倍以上短縮することによって,数だけさばき,問題のない結果を出すことのみが目標に置かれる。
最終的にヴァイゼ氏は去っていますが,理由は不明。

問題が明らかになるにつれ,「ヴァイゼ氏の指示で,難民の審査は,ひとりひとりの人間を重んじる手作業からベルトコンベアーに変わった」とメディアから批判されていますが,ヴァイゼ氏は否定。曰く,「同じような背景や条件の人たちに同じ判断を下すことによって高い効率でさばけるようになった」。
しかし,ヴァイゼ氏は当時,システムが混乱している問題について数回にわたり,メルケル首相に個人的に報告していた事実も明らかになっています。

ところで,2015年末,ブレーメンだけが認定難民数が突出して多い事実に疑問を抱いた左翼党(Linke)は,国会で質問状を提出しています。
その頃,難民認定システムが正常に機能していない内部報告も出されています。また,コンスタンツ大学も,公表されたデータを通して分析なので原因は特定できないと説明しつつも,難民の認定が全国の支局でムラが多すぎる,という報告書を提出しています。

それらに対するドイツ政府の当時の回答は,「難民を審査する判定基準など,ドイツ全土の移民難民支局において共通の教育を行っているので,審査の結果に違いは基本的に起こらない。結果的な認定数の相違は,個人的な背景によるもの。また,コンスタンツ大学の評価は,公表されたデータを基にしているので,信憑性は低い」。

メルケル首相やデメジエール前内務大臣が問題についてどの程度把握していたか,これから徐々に明らかになってゆくと思います。

現時点では,問題の悪はブレーメンのみ。ブレーメン難民移民局は現在,難民の審査は行っても決定権はゼーホーファー現内務大臣によって剥奪されました。

メディアによっては,罷免されたブレーメン支局長を庇うだけではなく,市民の勇気として讃える記事もみられます。
ベルリンの Taz など,左翼的な新聞がブレーメン支局長を支持するのは理解できますが,それを別にしても,例えば,イラクのイスラム国からはテロを受けたり,奴隷として誘拐され,トルコからはクルド人としてテロリストに見られているヤズィーディー教徒の存在があります。
多くのケースで難民認定を拒否されたヤズィーディー教徒を救うために行ったブレーメン支局長の人道的な勇気も一例として挙げられています。
関係者に渡った賄賂は明らかなようですが,ブレーメン支局長自身は,お金は全く受け取っていないことを明言しています。
彼女は「反省することはない,再び同じ状況に置かれたら,同じような判断をする」と,改めて発言するかもしれない。

問題発覚から一貫して,ゼーホーファー内務大臣が批判され続けていますが,氏は大臣職に就いたばかり。
個人的には,言動など,好意を抱くことは少ない(バイエルンの)政治家ですが,ぼくが政治家の責任範囲に疎いせいか,このスキャンダルで責任を強く問われる理由があまり分かりません。
しかし,ゼーホーファーに限りませんが,難民抑制派にとっては,難民認定数が少ない支局のほうが業績を上げているとして高い評価をするようです。

BAMF(ドイツ移民難民庁)