Champions League 2018

J. クロップと肌が合う仲間たち

football w640ルゲン・クロップという人を初めて見たのは2006年のワールドカップのテレビ中継での解説。
通常のテレビの解説者とは少し違うラフすぎるスタイルだったので,何をしている人だろうと思ったけれども,デジタルグラフィックでよく分かる大スクリーンビデオで選手たちの動きなどを解説しながらの各試合の批評が素人にも理解できる適切な表現だったので,耳を傾けました。

でも,おしゃべり,早口,という感じだったので,サーカー選手とは思いもよりませんでした。
その後,しばらくしてボルシア・ドルトムンドの監督として度々テレビに出るようになって,あぁなんだ,トレーナーなのか,と思った,それだけのことです。

ところで,欧州サッカーを知っている人にとっては当たり前のことですが,サッカー好きの人たちは地元のチームに最も親近感を抱いています。チャンピオンズリーグがワールドカップを上回るほどの人気を保っている理由はここにあります。

ドルトムンドはルール地帯の代表格

bvb borussia dortmund日本でも,学校の教科書でも,ドイツ産業を語る上で「ルール工業地帯」は欠かせないキーワードですが,"工業" という言葉が消えて「ルール地帯(Ruhrgebiet)」という呼び名になって30年以上経った今でも,ルール工業地帯の昔ながらの風土は生きています。
政治的には社会党の牙城。製鉄所で働いていたお父さん,鉱山で働いていたお祖父さんが社会党だったから,当然のように社会党を支持している人たちがわんさといるのです。

サッカーと郷土愛とは密接につながっていると思いますが,ルール地帯のサッカーに関しては,シャルケのいるゲルゼンキルヘンやエッセンを抜き,ドルトムンドが突出しています。
多種多様な人々が大勢住む都会のサッカーチームでは,サポーターたちの結束度に必要な,同じ価値感を分け合っているという感覚が希薄。フォルクスワーゲン(ヴォルフスブルク)やバイエル(レーヴァークーゼン)など,大企業一社に依存している町のチームはやや特殊。ですからやはり,多くの工場を囲んで汗にまみれた人たちが多い庶民文化が根付いているルール地帯の各都市の住民が一体となって支援する,地元チームに対する燃える情熱はただものではありません。
例外的なチームとしてはバイエルンだけでしょうか。
南ドイツのカールスルーエの大企業でボルシア・ドルトムンドのTシャツをいつも着ている人がいたので,聞いてみると,ドルトムンドで育ったとのこと,南ドイツに移ってから20年近く経ってもサポートチームは絶対に変わらない,のだそうです。

ユルゲン・クロップはルール地帯の出身ではないようですが,うまが合ったのではないかと察します。彼にエレガントさは感じないし,たぶんスタイリッシュな着こなしで上品に振舞うことなどできない人かもしれません。うまさえ合えば誰とでも騒いで乾杯,絹を着せずに思ったことを言う,燃え始めたら止まらないエネルギー,などなど。日本なら,裕福でいくら金があっても,夜は役員会との夕食よりも,赤提灯で焼き鳥と焼酎をほおばりながら,隣りのおっちゃんたちと語る合うのが一番,というタイプでしょうか。

リヴァプールは英国のドルトムンド

football liverpool w640英国ではドイツ人は好かれない,とよくいわれます。英国に渡ったサッカー選手も苦労しているニュースをときどき聞くのが,そのような偏見に根ざしているのかについては分かりません。ドイツの組織的・計画的なサッカー戦略に対して,燃える攻撃性で押しまくる英国サッカーと合わないのかもしれません。素人の視点ですが・・・

ぼくはドルトムンドはよく知っています。アイルランドに渡る途中でリヴァプールに初めて寄ったとき,街の形は全く違うのに,とても似ている第一印象を抱いたのを覚えています。だから,クロップが(リヴァプールの風土を)知っていたのかどうか分かりませんが,リヴァプールに行ったのは彼にとってラッキーだった。違和感がなかった,そんな感じがします。

それに特に英国は,大卒など高等教育を受けた上級クラスや家系の良い層に対極する市民の層が明確で,彼らのスポーツがサッカーなのだ,という気がします。
ジョン・レノンも日本の昔風の言い方とすれば「不良」,一見ひ弱なハンサムに見えるロッド・ステュアートが草サッカーに勤しんでいる写真もいくども見たし,英国サッカーはドイツ以上に庶民独占のスポーツのような印象があります。
リヴァプールの空港名が,ポール・マッカートニー空港ではなく,ジョン・レノン空港なのも納得。
リヴァプール人が抱く一体感は「不良の若者」のような反骨精神なのです。
デュッセルドルフで英語教室を開いている人に出身地を聞いたとき,即「リヴァプール」と誇り高く答えていたのがとても印象的でした。

そのような英国サッカーの町に赤の他人であるクロップが乗り込み,代表選手たちだけではなく,地元のサポーターたちとも気楽に付き合いながら,一緒に燃え,その庶民的なエネルギーでチームを押し上げたのですから,地元からの新密度と信頼度はおのずと上がった,その頂点が今回のチャンピオンズリーグ決勝だったのだと思います。

以上,勝手な想像にわずかな情報を結んだだけなので,事実に対する何らの保証もありません。
いつか香川さんに知り合う機会にでも恵まれたら,クロップやドルトムンドについて聞いてみようと思います。

チャンピオンズリーグ決勝日に日本デーはまずい

ドイツが準決勝で負けて良かった。
なぜかといえば,決勝戦のあった日曜日はデュッセルドルフの日本デーの日だったのです。天気の良い,暖かい夏の夕べ。ドイツが勝ち残っていたら,ライン河畔の広大なパブリックビューイングで決勝戦を見たいと望む人たちがわんさといただろうことは容易に想像できます。つまり,好条件でハイライトを見られる機会が日本デーのために中止になったり,別の場所に移動を強いられたりしたら多くの不満が爆発したであろうと思ったのです。
サッカー好きで知られる Toten Hosen の Campino はキエフまで行く恵まれた立場でしたが(リヴァプール応援のため),ドイツが決勝まで残っていたら,日本デーどころじゃないと思う層も厚いと思うし,やはり彼らへの配慮も必要です。サッカーはもう国民的なスポーツですから。
将来は,チャンピオンズリーグの決勝日と日本デーが重ならないように計画してほしいものです。

予測できないハプニングが起こるのがサッカー

さて,アマチュアファンのひとりとして見た,リバプール・レアルマドリッド戦ですが,個人的な心情としてもいろんな思いがありました。
でもまず,サッカーをよく知る日本の人たちが今回の決勝戦をどう評価していたかを知るためにネットで探してみました。
ゴールキーパーの大ミスという事故があったせいか,日本の熱烈なサッカーファンもネット上でいろんなことを言っていましたが,大半は試合の内容の説明,それらに併せ軽いノリのコメント類だったので少しがっかり。

ただひとつ,ゴールキーパーのトレイナーをしているような方が,今回の決勝戦から学べるGKの心構えとして次のような結論を出しておられるのが気になりました。

「GKは常に冷静でいる」
「瞬時の状況判断」 
「失点後の切り替え」 
「コーチングの重要性」

普通に聞くと納得できる正論ですが,基本的なこととして説明するのが妥当ではないでしょうか。
もしこの方が,カリウスに(または当日のカリウスに)これらが欠けていたから,というのであれば,違うと思います。
カリウスという名前すら初めて聞いたぼくの知識なのですが,ドイツのネットで彼のことを少し調べてみると,どうやら結構優秀な人で某トレーナー氏が指摘する点にも優れているらしい。ユルゲン・クロップもオリヴァー・カーンもカリウスの能力の不足点などについては,テレビということもありますが,全く語っていない。
共通して頻繁に出てきた言葉は運・不運。
カーンがやや不満気にこぼしていた言葉は,「なんかみんな泣くなぁ,スタジアムで涙みせるなよ,控え室に戻ってから泣けばいいじゃないか」

カーンが言っていた言葉の記憶を辿ると・・・
ゴールキーパーはボールを投げるとき,自分の周りに誰かいるか,いるならどのような状態でいるかに常に注意している。そしてどの行動を起こすか瞬時に判断する。カリウスも(左じゃない)よし右だ,と思って投げることにした,その瞬間(彼の足に)気づいたんだろうけれどもそのときはもう遅かった。0.01秒単位だからね。こんなミスは誰にでも起きるんだよ。でも,決勝戦に起こったのはまずかった。不運だ。命取りになる可能性があるね。
勝因を言うならば,運,そしてレアル・マドリッドのプレイヤーたちが備えた個性的な素質だね。
(ラモスがサラーを故意に痛めるように倒れた可能性については)わからない,何ともいえない。
カーンだったか,クロップだったか忘れましたが,「レスリングみたいだったなぁ」という感想もありました。

しかし,問題にはならなかったけれども,ラモスはこのミスのわずか数分前に,ジャンプ時に自分の腕をカリウスの頭に強くぶつけているので,まだカリウスに痛みが残っていたのかもしれない。攻撃的な反則の前科が多いラモスだけに,サラーを倒したシーンはビデオチェックを行ってもよかったかも,という気もします。
また,ユニフォームを引っ張られただけで,痛かったかのように大げさなジェスチャーをしていたラモスですが,こんなのは昔やたらよく見たサッカー選手のクラシックな嫌な姿。 
いずれにせよ,全戦を通じてリヴァプールのガッツとスピードは感じられたし,気のせいか,準決勝のバイエルンチームよりもはるかにエネルギー満々だった。
個人的には,しっかりとマークされていたこともあり,ロナルドの「才」が見られなかったことが,ミーハーのぼくにはちょっと残念。

しかし,カリウスの貢献度もあってここまで上がり詰めて全力を尽くしたチームのゴールキーパーに対して,「チャンピオンズリーグ決勝から学ぶGK育成の4ポイント」などとは,J. クロップはもちろん,少なくとも欧州のトップクラスのサッカーチームのトレーナーなら誰も言わない,そんな気がするのですが如何でしょうか。
言うは易し,終わってからなら,さらに易し。

そして,ぼくの予感が間違っていなかったことが証明された1週間後のニュース。
休暇でアメリカのボストンに滞在中のカリウスはマサチューセッツ病院で検査を受け,脳震盪を起こしていたことが発見。医師によると視覚障害,認知障害もあるという。
ラモスに強い肘打ちをくらって倒れたカリウスは審判に不平を訴えたけれども相手にされなかった。
意図的な行為だったかどうかは知る由もない。

 

プログラム提供元: CComment