生まれたところは救いの無い世界

boat people w640世の中に生まれて,気がついた自分の世界は地下の洞窟。大人の合図に従って,空がある世界にときどき出て遊ぶ。
「物心付いたころから爆弾の音を聞いていたので,別に驚いたり,怖がったりすることはなかったわ」と微笑む少女。

1980年代にパリで会ったベトナム人の若いカップルは,ちょうど日本から来たとかで,日本人と話すことを懐かしがっているようでした。ボートピープルとして日本に渡り,3畳1間のアパートに住みながらマクドナルドで働いていたと言っていたふたり。そして,今はパリにいるけれども,カリフォルニアに渡れることが決まったのでとても嬉しい,と希望に胸を膨らましていました。

ボートピープルの人々が命からがらようやく日本に着きながら,上陸拒否され,岸辺につながれた船の中で生活しているニュースを聞いていた頃だったので,彼らが日本や日本人を褒めたり,懐かしがったりするほど,悲しく,そして自分の無力に何ともいえない気持ちになったのを覚えています。
明るく若いカップルの新たな人生が,日本と異なり,腕を広げて移民を受け入れているアメリカで幸福に始まってくれることを願いながら別れました。

人は若い頃は人種差別に対して高らかに反対の声を上げますが,偏見に根ざす人種主義はほとんどの人たちの心の中に,人間の本性のように,無意識にしっかりと入り込んでいる感情のような気がします。

Brand rostocker synagoge 09 11 1938 1ところで,ドイツの人種差別と聞くと,ナチスレジームとヒットラーが侵したホロコーストが即座に頭に浮かぶと思いますが,僕にとっての恐ろしさは,善人である一般の人たちの行動・思考の変化にあります。
日常的な社会の中で,学校や職場で,それまでは普通に付き合って人たちが,何かのきっかけで急に特定の人たちに暴力を振るい始めるのです。
昨日まで親友だった学友に,仕事の後に飲みあっていた同僚に,毎日買い物しながら駄弁って笑っていた店や食堂の隣人に背を向け,過激化して暴力を振るう光景にも目を背け,じきに共に歩き始める人たちの多くは,ぼくのような善人です。

1938年11月9日の「水晶の夜」の前後数日間で,ナチスに扇動されたとはいえ,約400名が虐殺または自殺を強いられ,約1300のユダヤ教会やユダヤ人経営店舗が焼き払われました。
多くは「善良な」一般市民によって・・・

知識人の力は限界,メディアが立ち上がれ!

トップの座にいる狂気の人間たちは,自分たちは直接手を下すことなく,市民が抱いている不安の責任を押し付けるスケープゴートを名指しするだけでいいのです。
特定のグループの中にテロリストがいるかも知れないという理由で該当グループを締め出すのならば,同じく「・・は・・・の恐れがある」という判断で,権力を握り,影響力の強い狂気を秘めたリーダー本人を締め出すべきです。

世界の主要リーダーたちが経済動向に一喜一憂している中,現在アメリカにいる狂気の人間を締め出すために真っ先に立つべきは,米国をはじめとする世界のメインストリームのメディアです。
自社の報道活動が独裁者による圧力を受けて動けなくなる前に一貫した拒否姿勢をとらないと,扇動された,潜在的な悪意なき一般人による「水晶の夜」が訪れます。

メディアの影響力と責任

自分が収集した正しい情報を基に判断しているつもりでも,やはりかなりの部分でメディアの論調の影響を受けていることは認めざるを得ません。
新しいところでは,ブッシュ政権時,知的で誠実なコリン・パウエル外務大臣が,自分は確信していないにもかかわらず,サダム・レジームの化学兵器工場の存在を発表すると同時に全メディアがイラク戦争に賛成する論評を出し,アメリカおよび主要世界の世論を獲得し,正義の戦争が始まりました。
その後,化学兵器の存在は否定されましたが,イラク戦争によって生じた多数の大問題が現在も尾を引いているのはご存知の通りです。
莫大な影響力を持つ主要メディアには,嘘を見抜くと同時に,政治経済界のパワーリーダーたちのエゴを暴く責任があることを認識して欲しいと思います。

プログラム提供元: CComment