midnight cowboy poster 1映画が好きな人たちは心に残っている映画について自分の「感動」を語ります。
ぼくも語っていいならば,まず「真夜中のカウボーイ」が浮かびます。
もちろん,主役のダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイト,それにそれまで聞いたこともなかった英国の映画監督,ジョン・シュレシンガーを加えた映画の説明も必要ですが,40年以上を経た今でもぼくの心に残っているのは,太陽がまぶしいマイアミにグレイハウンドで到着する最後のシーン。
心に残っている,という表現では済まない,今思えば,その頃は意識することはなかった,僕の身体の奥底に一生を通じて潜んでいる「何か」が見える形として「真夜中のカウボーイ」の中で表現されていたような気がするのです。

60年代末のアメリカ映画といえば,プロフェッショナルな映画の演出の最高峰が次々を世界市場に出し続けてきた「面白い,興奮する,感動する」映画が徐々に終わり,娯楽ではない,現実にワンステップ近づいた映画が製作され始めていた頃です。
ミーハー的には僕の状況は「卒業」と似ていたので,大きな感情移入もあり,ダスティン・ホフマンのファンになり,マイク・ニコルズにも注目するようになりました。
ダスティン・ホフマンに関して云えば,初めてみた「卒業」,そして「真夜中のカウボーイ」しかないと思っています。ですから,どうでもいいことですが Kramer VS Kramer がオスカー受賞にはあまり納得しません。

ハーモニカに初めて心を動かされたとき

toots thielemans 2ニューヨークという都会は,まさにありとあらゆる人が魅力を感じ,それぞれの憎悪愛で離れることのできないパワーを備えていると同時に,世界が凝縮された都市ニューヨークには人間の不条理も詰まっていると思うのです。そのニューヨークのマンハッタンで,身体の障害もあり,劣等感を隠しながら格好良く突っ張って生きているイタリア移民が最後に夢見るマイアミ到着までの数ヶ月間は人生の凝縮です。

その人生と世界の凝縮の1時間余に流れていた素晴らしい音色を聞いて,ハーモニカという楽器を初めて意識しました。ハーモニカのジャズミュージシャンがいることも,ティールマンスという人の名前も知りませんでした。その後,弟に聞くと,「あぁ,ティールマンスね」と即答が得られ,有名ジャズミュージシャンであることも初めて知った次第です。

映画ゲッタウェイのクインシー・ジョーンズの音楽はとても印象深いのですが,思い起こすとハーモニカも強く流れています。おそらく,ティールマンスだと思います。
ひとこと付け加えるならば,ゲッタウェイの最初のシーン,刑務所から出たスティーブ・マックウィーンは迎えに来た彼女と公園を歩き,暖かい陽の下で寛いでいる人たちを見ながら,戻って来た「自由な世界」の幸福を胸一杯に感じます。上着と靴を脱ぎ捨て水に飛び込み,彼女との抱擁を頭に浮かべ想像します(実際そうだったことは濡れた服で家に入る次のシーンで分かるのですが・・・)。いずれにせよ,一言の言葉を交わすことなく数分間続くスローモーション画面に流れるのはハーモニカだけ,だったと思います。
そして,あのセサミストリートのハーモニカによるテーマメロディーもティールマンスだったことは,今朝初めて知りました。

そのティールマンスが,母国ベルギーで亡くなりました(94歳)。

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