ドイツ人と自動車    

球温暖化による環境大危機へのカウントダウンが迫るにつれ,環境に悪影響を与えるあらゆる要素の見直しが進んでいます。
90年代まで環境保護の優等生だったドイツ。そして環境大臣を務めたメルケル女史がドイツ首相になり,他国に模範を示すはずだったのに,環境保護への対応で欧州連合から度々非難を受けているドイツ。ただ,両者の言い分を聞くと,筆者のような素人にはなかなか判断がつきません。

欧州連合が定めた二酸化炭素の最大排出量を減らすことができず,ドイツの多くの都市でディーゼル車の走行が禁止されつつあるのはご存知の通り。
アンドレアス・ショイアー交通大臣(CSU)は,自治体に対して,欧州議会に異議を申し立てることを推奨。主要メディアも,肺の専門医師の意見を代表する形で呼吸器学会会長が「自動車の排ガスが健康,特に肺に実際に悪影響を及ぼしているかどうかは実証できないので,NOx(窒素酸化物)の最大排出量を定めることは無意味」と言った意見を今ごろ大きく取り上げ,官民広報がドイツの空気汚染度に関するEUの決定は正しくないと言わんばかり。

しかしこれらは,新たに提起された,古くて新しい,アウトバーンの速度制限に関する論議に対するコメントだったが,一般市民は今回は政府の決定に簡単には引き下がらず,環境ファースト・健康ファーストの世論が大きくなりつつある感じだ。 

ドイツの(誇る)アウトバーンに速度制限は不要?

autobahn 1 w600ドイツのアウトバーン(自動車専用道路)で最高速度の制限が設けられている区間は30パーセント,距離にして7640キロ,残りの1万8千150キロは制限速度無し。
ほぼ常時的な工事区間や交通量の増加もあり,近年は無制限区間は少ないと思っていただけに意外な数字だ。

「ドイツ政府はアウトバーンに制限速度を設ける意図は無いし,政党大連立の契約にも含まれていない」と,改めてそっけなくドイツの高速道路の制限速度の議論に終止符を打ったドイツ連邦政府。

世界に名だたるドイツの制限速度無し自動車専用道路「アウトバーン」
筆者が知る限り,30年以上も前から,特に1980年に緑の党が結成されてから環境保護が声高く叫ばれ,アウトバーンに制限速度を設ける案も度々ニュースで見聞きしてきた気がする。
しかし,いつも,誇り高いドイツ技術を盾に拒否されてきた。

ドイツの自動車も道路も他国よりも優れているのか

ことあるごとに
「ドイツのアウトバーンは世界で一番安全。他国の高速道路と異なり,高速で走行しても安全性に危害を及ぼさないような構造になっている。特に大型トラックにより道路が劣化しないような強固さだけではなく,カーブでは曲がり具合に応じて異なった傾斜度の起伏を設けている」
「速度無制限の区間は限られている」
「120キロで走りたい人は120キロで走ればいい。もっと速く走りたい人は速く走ってもいい。どこに問題があるんですか?」
「運転者の自由意志で判断するのが民主主義的」
「多くのドイツ車は高速で安全に走るような構造になっている」
などなどの反論で,制限案はいつも否定されてきた。

ドイツに多い暴走運転者?

いつだったか,女性の国会議員が,「制限速度が時速140キロになどなったら,私はトラックに抜かれてしまうかもしれない」と答えるのを聞いて驚いた記憶がある。

高速道路に標準的な制限速度がないのはヨーロッパではドイツのみ。ポーランドが時速140キロ。その他のヨーロッパの国々は時速130キロ以下が最高速度として定められているので,どんなに見晴らしの良い直線の高速道路でも,制限速度以上で走ることはできない。世界でも例外的な存在らしい。
休暇などでヨーロッパ中を車で走るドイツ人は,別名「スピード狂」としてすでに有名だ。
速度に関する感覚が異なるのかな,と思うこともある。
南ドイツのシュヴァルツヴァルト地方で,すれ違いも難しい,崖沿いに曲がりくねった狭い無舗装の山道を走った折,制限速度70キロの標識があったので驚いた。対向車が来なくても70キロも出すこと自体がむずかしいような山道だったから。

でも,長らく,車を飛ばすドイツ人は例外的だと思っていた。
自家用車はずっと持っていなかったし,実際に同乗する車といえばヒッチハイクか友人の車だったので,高級車の体験はほとんどなかった。速度も全くのんびり感覚だった。

しかし,その後,ドイツ企業の社員が運転する車に乗せてもらう機会に度々恵まれ(少なくとも数十回),驚くようになった。ほぼいつも170キロ以上出して,抜ける車はすべて抜きまくる走り方だった。携帯電話が市場に出回り始めた90年代末も,電話しながら,車を抜きながらの170キロ走行も全く例外ではなかった。
大型の高級車は安定性が高く,車内は静かなので,危険は感じないどころかスムースに滑るような感じはあるけれども,一瞬にして横を抜かれた普通車のドライバーの気持ちは知る由もない。
実は,車を持つようになって,片道2車線のアウトバーンで2台並んで走っていた折,左右の車間に一瞬出来た空間を走り抜かれたことがあった。

しかし,公平を期すために付け加えると,ドイツ人の運転マナーは日本よりも良いのかもしれない。
「横断歩道ではもちろん,道を渡ろうという姿勢を見せただけで,ドイツの車はすぐに止まりますね」
日本からの訪問者や,ドイツに来て間もない日本人からよく聞く感嘆風の言葉だ。

自動車産業のロビー

米国の銃規制を阻む銃ロビー団体に首を傾げ続けてきたドイツ人も,もうアメリカ人を笑えないのではないか。ドイツの制限速度の壁がドイツ自動車産業のロビー団体にあるのは,やっぱりというべきか,事実のようだ。
Autolobby Schwarzbuch - Green Peace Report

高速度で飛ばそう - なぜドイツの自動車メーカーは速度制限を望まないのか

ZDF(ドイツ第二放送)ドキュメンタリー(2015年)