辞書・事典のドイツ最大の出版社「ランゲンシャイト」


SMASH

ランゲンシャイト出版社が今年選んだ「若者語」は「スマッシュ」
押し寄せる多くの英語のひとつで,もう長年ドイツの若者たちの間で使われている語彙だけれども,原語の意味とは少し異なる。

英語のSmashは,壊す(打ち壊す)という意味が強いと思うけれども,ドイツの若者が使用するドイツ語化したSmashは,「誰かと」というのが付随する動詞。
それで,誰かと何か始める,誰かを連れてゆく,誰かとセックスをする,という意味合いで用いる。

ドイツも日本に勝るとも劣らないアメリカ語好き人になったので,特に若者の間では英語の語彙が頻繁に,そして極く普通に,ドイツ語文の中に入っている環境も後押ししている。
知る限り,フランス語や中国語は,新しい米語でも速やかに「正しい」訳語が辞書に載るような印象があるのだけれども。

ランゲンシャイト(Langenscheidt)

ところで,ドイツの辞書・事典といえば,圧倒的に多いのがLangenscheidt(ランゲンシャイト)出版だ。
この黄色いカバーを見たことがない人は,ドイツには皆無だろう。
筆者は,辞書は,内容の違いは分からないので,黄色ではなく緑色のPONSのほうがセンス良く見え,つるつるしたランゲンシャイトの紙より,光沢の無い紙のほうが好きだから,というだけの理由でPONSを買っていたけれども,今,本棚にある言語学習の本を見ると,黄色い本が多いことに改めて気づいた。

となると,ランゲンシャイトはドイツの名前っぽいから創立者かな,と考え始める。

やっぱりそうか。
Gustav Langenscheidt(グスタフ・ランゲンシャイト:1832年,ベルリン生)
二十歳前後の数年間,ドイツの周辺諸国,約7千キロをを徒歩や郵便馬車などで旅し,フランス語を何とか覚えたいと思ったけれども,辞書はもちろん,教科書もないので自力で学習方法を考えた。
1856年,24歳のときに,フランス語の教師,シャルル・トゥーサン(Charles Toussaint)との共同執筆でフランス語習得法の本を出版するために出版社に持ち込んだけれども全社に拒否され,最終的に同年,出版社を設立する。

そして,自費出版となった「フランス語を学ぶための教則本(Unterrichtsbriefe zur Erlernung der französischen Sprache)」は,外国語を学びたい多くの人たちから爆発的な人気を呼び,以来,ランゲンシャイトは,“Vater des Fernunterrichts”と呼ばれるようになった。
因みに和訳すると,通信授業の父,と書いてしまうけれども,通信というよりも,直接授業ではなく,先生とは離れた場所で学ぶあらゆる授業を指す。

この,トゥーサン・ランゲンシャイト学習法は,有名な語学教師ハミルトン(James Hamilton)やジャコトー語学習得法を生み出したジャコトー(Jean Joseph Jacotot)を基にしているけれども,違いは,文法よりも,対話や実際の会話を学ぶ方法に重点が置かれていることと,ドイツ語を母国語とする人のための発音記号を生み出したこと。
第二次大戦後に国際共通の発音記号に代わるまで,ドイツではトゥーサン・ランゲンシャイトの発音記号が標準だった。

そのランゲンシャイト出版社は,著名な辞書編集者や言語学者などの協力を得て,独英辞書や事典を出版し,大きな発展を遂げることになるが,グスタフ・ランゲンシャイトは独英辞書の出版を見ることなく,1895年,63才で死去。

 

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