ドイツの基礎知識
ナチス台頭の反省から,特に権力の一極集中を完全に排除する国家の最高法規である憲法(基本法)を政治理念とする自由・民主主義国家ドイツの政治制度
ドイツの政治と政党
現代のドイツは,どのような事態になってもナチス独裁政権のような政府が絶対に発生し得ない政治制度を作り上げることを念頭においているように思えます。
世界の主要な諸国は,民主主義と人権を最も尊重すべき基盤と捉えていますが,その点ではドイツも同様です。 ただ,戦後,占領国だった米英仏は,ドイツにまず憲法を制定するよう指示しますが,ドイツは戦後の時期を「いつか全ドイツが統一されるまでの過渡期」と捉え,憲法ではなく基本法という名称で国家の最高法規を作成します。
そして1989年,突然の東独崩壊によってドイツ統一が達成されましたが,実際には新たな憲法が制定されることもなく,基本法が引き続き,ドイツ憲法として適用されています。
ドイツ民主主義
Deutsche Demokratie
ドイツの政治的秩序の原則は,「国家権力の原点は国民にあり,個人の権利と自由を保障する」規定の下に,基本法に定められています。
人間の尊重と保護を国家の義務とした上で,個人という人間の自由権や平等権が詳細に規定されていますが,これらについても,ワイマール憲法が不完全だったためにナチス独裁を許す結果になった反省にたっていると云われています。
ドイツ(国家)の6つの柱
民主主義(Demokratie)
国民主権の下で政治に参加し,個人の意見を自由に述べられること
基本法 Grundgesetz
国民主権,三権分立,人権尊重
人権 Grundrechte
人権は,憲法裁判所および欧州人権委員会の決定でも規定されている,すべての個人の自由が保障された基本法の条項(1-19)で定められています。
連邦国家(Bundesstaat)
ドイツの正式名称は,ドイツ連邦共和国。長年の歴史で培われた連邦制度の下で,各連邦州は権力を持ち,国と連邦州(現在16州)は相互に管理を行うと共に協力する国家構成となっています。
法治国家(Rechtsstaat)
すべての国民は法の下に平等,とする法的な平等は法治国家の基本原則です。
社会国家(Sozialstaat)
社会国家としての原則は基本法で定められている規定と重複していますが,社会国家としてのドイツ国家は,すべての国民の最低生活水準を保障するべき責務があります。
政治参加 Politische Beteiligung
政治への参加は,新聞の購読から政治への直接参加など多様な形がありますが,政治について討論や語り合うことも,すでに政治に参加していることになります。
投票 Wahlen
一定期間,国民の代表者としての権力を与える,民主主義の最も重要な自由な投票
政党 Parteien
国家と社会の橋渡しの役割を果たす政党は特権を有しているので,一定の要求に応えなければなりません。
利益団体 Interessenverbände
基本法に準拠している限り,誰でも自由に団体を結成できる権利は基本法で規定されているので,市民は利益団体を介してさらに強い政治的な個々の主張を行うことができます。
教会 Kirchen
最も大きく,最も多くの人々が参加している利益団体が教会です。特別な立場を活用して多様な社会活動に携わっています。
市民団体 Bürgeriniativen
多くの場合,市民団体はひとつの目的に即して,多くの市民を動員して圧力をかけますが,市民運動が逆に批判にさらされることもあります。
マスメディア Massenmedien
世論に大きな影響力を有するマスメディアは,市民に情報を提供すると共に,政治的な参加をすることも可能です。ドイツでは,公共と民間のテレビ・ラジオ放送局が競合しています。
ドイツの政党 Parteien in Deutschland
ドイツキリスト教民主連盟
CDU: Christlich Demokratische Union Deutschlands
1950年設立,保守・リベラル・キリスト教・社会的なドイツ最大の党派。全国レベルですが,バイエルン州には同じキリスト教民主主義のCSU(キリスト教社会同盟)が最大且つ独占的に長年制覇しているため,最も近い連立与党を組んでいます。
国民の支持率はやや減り続けていますが,最初のコンラッド・アデナウアーに続き,ヘルムート・コール,アンゲラ・メルケルが首相を務めていたCDUは別称,名望家政党とも呼ばれています。
- 前回(2013年9月)の取得票率(34.1%)
- 党員数: 43万4000
ドイツ社会民主党
SPD: Sozialdemokratische Partei Deutschlands
150年以上の歴史を持つドイツ社会党は,現存するドイツ最古の党派です。ワーマール共和国の時代から労働者階級を代表する党派として政治に影響を与えながらも,1970年代に入るまで与党にはなれませんでした。様々な党派との連立政権で政治に参加し,計20年間に渡り首相を選出しています。1959年に新たに定められた綱領の原則は,自由および社会的公平・団結。党員・賛同者の多くはプロテスタントおよび宗教を問わない労働者層で占められています。
- 前回(2013年9月)の取得票率(25.7%)
- 党員数: 43万6000
左の党
DIE LINKE
左の党は,民主社会党(PDS: Partei des Demokratischen Sozialismus)および労働社会公平党(WASG)が合併した左翼派です。民主社会党(PDS)はドイツ民主共和国の独占党派だったSEDが1989年の東ドイツ消滅に伴い,改名された党派です。東西ドイツ統一後も資本主義に懐疑的な人々は旧東ドイツに多く,新たに開かれた旧東ドイツ地域に拡張を図りたいドイツ社会党および共産主義の賛同者が多いのが「リンケ」といえます。
- 前回(2013年9月)の取得票率(8.6%)
- 党員数: 5万9000
注)Die Grüne の和訳が「緑の党」として定着しているので,Die Linke を「左の党」と和訳しました。
緑の党
BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN
環境破壊および原子力エネルギーへの抗議運動から誕生した「緑の党」は,ドイツの歴史上,新興党派として最も成功を収めている政党です。1980年代から,キリスト教連盟(CDU),社会党(SPD),自由民主党(FDP)に続く第4党としての位置を保ち続け,1990年代後半からは第3党に躍進しています。1998年から2005年まで連立政権で与党として国会に参画。
- 前回(2013年9月)の取得票率(8.4%)
- 党員数: 6万1000
バイエルン州キリスト教社会同盟
CSU: Christlich-Soziale Union in Bayern e.V.
バイエルン州をほぼ独占しているCSUは,ドイツの政党の中でも例外的な存在です。バイエルン州の選挙のみで活動している地方党派とも呼べる半面,他のどの州でも見られない一党独占の覇権が続いています。2008年から2013年までの連立政権の時代を除き,1966年から今日まで一党で統治し,連邦参議院の議席が一党で占められているのはバイエルン州だけです。CDU/CSU連立とする与党内で約2割を占めるCSUですが,最近は難民政策などで意見が大きく分かれています。
- 前回(2013年9月)の取得票率(7.4%)
- 党員数: 14万4000
ドイツのためのもうひとつの選択
AfD: Alternative für Deutschland
2016年末から急激に賛同者が増えた極右政党。特にドイツに流れ込む難民を拒否する政策で,旧東独地域を中心に成長を続け,約8%を保ち,9月の選挙では緑の党を凌ぐ勢いを見せ始めている。
- 前回(2013年9月)の取得票率(4.7%),5%に満たないため無効
- 党員数: 2万5000
自由民主党
FDP: Freie Demokratische Partei
前回の選挙で連邦議会の議席を失いましたが,再び票数を戻しつつある,1948年設立のリベラル政党です。ドイツの初代大統領,テオドール・ホイスは初代党首,そしてCDUとの連立政権時代はコール首相の片腕だったゲンチャー氏もFDPでした。
- 前回(2013年9月)の取得票率(4.8%),5%に満たないため無効
- 党員数: 5万4000
その他の小政党
BIW
Die PARTEI
Tierschutzpartei
FAMILIE
FREIE WÄHLER
NPD
ÖDP
PIRATEN
SSW
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