地中海に浮かぶ火山諸島
ナポリからシシリア島に行く船があるらしい。
港で問い合わせたら,途中でいくつかの島に寄るからどこで降りてもいいという。
これはいい。決めた。
夜遅く出発するので,切符を買った後,街なかに夕食のピツァを食べに出かけた。
夕食に肉,魚,ポテト,パスタなどのごってりした料理をとるのは外国人の観光客だけ。だから太るんだよ。イタリアの庶民の夕食はピツァのみ。と,イタリア人の婦人に聞いていたので迷わずピツァリアに入って迷わずピツァを頼んだ。さすがに本場のナポリターナは大きく,カラフ入りのハウスワインも美味で満足。
日もすっかり暮れ,すっかり良い気分になって再び波止場に歩いて戻った。
誰もいなかったけれども,まだ時間が早いからだろう,と思い,でもしばらく経っても誰も来ない。
さすがに心配になって通りかかりの人に尋ねたら,シシリア行きの船はあっちだよ,とずっと先の方を指差して「もうすぐ出発するよ」と。
真っ暗な波止場を走って走ってぎりぎり間に合った。
大きなフェリーで,トラックなどの商用車がほとんどだったような気がする。
車なしで乗る人はいないのかもしれない。客室や食堂があるようなホールも客の姿も全然見えなかった。与えられた部屋は,部屋とは呼べないほどの,小さな簡易ベッドがひとつ置けるだけの空間。横に立つのがやっとの広さだった。
おそらくトラックの運ちゃんたちは車の中で寝て,乗用車の客はどこか特別な場所にある寝室で休むのだろう。
まぁいいや。酔いと疲れで,すぐに寝ついた。
小さな窓から差し込む朝の光で目が覚め,しばらくすると島に近づき始めた。
そして急いで甲板を降りた。小さな島だ。
リパリ諸島のひとつらしい,というのは後で知った。
本当は間違えて,予定していたリパリのひとつ前の島で降りてしまったんだけれども,島も小さく観光客もいなかったのは幸いだった。
後悔どころか,一生の想い出に残る,感激の瞬間を味わったのだから。
また,宿も港のすぐ近くに見つかり,海を眼前に望む木骨あふれる素朴な部屋で大満足だった。
ぶらっと散歩に出た。火山だから頂上まで登るのは気をつけなさい,と言われていたので,海沿いに歩いていった。
しばらくすると行き止まり,というか道が消えてしまった。引き返そうかと迷ったけれども,何となくそのまま草を分けながら進んで行くと,ずっと前方に道が見えた。
よしそっちだ,と向かうと,また道なき道の上がり道。
そしてやっと頂上に着いた,と思った瞬間,眼下に広がった,絶壁に囲まれて海から顔を出している2つの巨大な岩山と白浜,その間を抜ける青く輝く波。岩山の表面は手入れされたゴルフ場のような緑。でもおそらく人が登ることはできない。
ここで引き返したのだけれども,見渡しても人ひとりおらず,波の音しか聞こえない,静寂。完璧な絵画がゆっくりと動いているような光景に身が震えた。
カメラを持っていたら撮りまくったかもしれない。
でも無かったからこそ,ただただ眺めながらいろんな想いを馳せ,想像していたものとは全く違う「意外」に出会うことが旅の醍醐味だなと改めて確認した。