日本食レストランで起業
ドイツで日本食レストランを開業する(4)
日本食レストランのメニュー
従来のオーソドックスなメニュー構成。すし,てんぷら,すきやき,いろいろな定食などを提供するレストランは,これまでと変わらず,標準的な経営方法を行えば間違いなくやってゆけると思います。特に大きな町では,本物の日本食とレストランの雰囲気を求める層は確実にいますから,小規模ならば少数の和食ファンを固定客・馴染み客として獲得したらもう成功です。
しかし,中規模(50席)以上の店や小さな町などでは,オーソドックスなメニューではむずかしいかも知れません。勝手な単純計算ですが,普通の日本食(ごはん,味噌汁,おかず)を代表とする伝統的な日本食が好きなヨーロッパ人・ドイツ人は1000人に1人もいないと思ったほうがいいでしょう。
すし
日本料理といえば寿司,という欧米人が増えてきました。併せて寿司が好きで,ときどき食する人たちも。それで,日本食レストランを開店したのに,メニューに寿司がなければ客を逃す可能性も出てきています。寿司職人がドイツで独立する場合は,寿司はもちろん,寿司以外の料理でも十分立派にこなすでしょうから,そのような問題はありません。しかし,料理人ではない人が日本食レストラン経営で独立したり,寿司はできない料理人が独立する場合は,考える必要があります。一流ではなくても寿司職人を雇うのは経済的にリスクが伴うからです。
そしてここで考えるべきことは,多くのドイツ人にとって,寿司とは何か,ということです。日本人は,江戸前寿司からはじまり,押し寿司にしろ,ちらし寿司にしろ,新鮮な生魚のない寿司は考えられません。しかし,そのような寿司を好むドイツ人は日本通のごくごく一部だと思っていいでしょう。そのような日本通を常連客として獲得できれば力強い,歩く広告塔を得たも同然なのですが,新鮮な魚を調達するだけでも,流通・金の面で大変。当然それらは価格に反映されるので,懐の寂しい人たちは一気に離れます。それでも,本物をと考えるか,ほとんどのドイツ人が信じ込んでいる「ニッポンのスシ」を作るかが最初の分かれ目かも知れません。
はっきり云って,当地の「ニッポンのスシ」は安く作れて,ある程度高く売れます。アメリカ生まれのカリフォルニア巻きが数十年遅れでヨーロッパに広まったのです。それに加えて,すし作製道具も増えているので,板さん不要の「ニッポンのスシ」が出回っているわけです。大規模な機械の導入に関しては分かりません。寿司の人気が出ているとはいえ,まだまだピツァやハンバーガーにはとても及ばないのです。
米などは,日本よりも安いのではないでしょうか。海苔も安いので十分。韓国製ながら,1ユーロ(20枚)海苔の味に驚いたことがあります。新鮮な魚も不要。季節によって現地で得られる野菜を工夫しながら,ふりかけまがいの醤油味をちょっと付ければ,もう立派な「ニッポンのスシ」ができあがります。
逆に,このような方法が常套手段になり,日本食商売を簡単に成り立たせているので,本格派は苦境に立たされているとも云えます。
人気上昇の寿司で儲けを狙うか,本物志向で逆境に向かうか,むずかしい判断です。
ラーメン・焼きそば
1980年代の中ごろ,知り合いの中華料理屋の主人に「ラーメン専門店でも開いたら繁盛するんじゃないですか」と言ったことがあります。その頃,日本のラーメン屋さんもありましたが,薄いチャーシューが2,3枚乗っているだけで高いラーメンより,季節の野菜や鴨肉がわんさと盛られた中国の湯麺の方がずっとおいしいと思ったのでそう提案したわけです。私の価値観は間違っていたようです。ご主人はラーメン屋さんは開きませんでしたが,パリやロンドンの人気が押し寄せたような,ラーメン旋風があっという間にドイツ全土(といっても都会だけですが)を席巻しました。中国大陸からやって来る中国人が増えたにもかかわらず,日本のラーメンが大人気になったのです。麺やスープをすする日本人をあれほど敬遠していたドイツ人たちも,今では笑顔で応対しているような感じです。
また,日本ではラーメン屋などは競争が激しいためか,原価率が高いようです。しかし,この日本の原価率の高さ(35-40%)は売上(1杯の値段)の低さに関係しているのではないでしょうか。言い方は悪いですが,日本では極く普通のラーメンの質でも,ドイツ・欧州諸国では,まだまだ十分いけると思います。これだけラーメン屋さんがあるのに8ユーロ(1000円)前後と平均価格が高いので,19%の付加価値税を除いても原価率は明らかに低くなります。
焼きそばもしかり,ほとんど中身のない「ニッポンのヤキソバ」が飛ぶように売れるのを見ると,野菜・肉がどっさりの,黄色い中華麺で作る焼きそばを好む私は間違っていたと思わざるを得ません。
ただ,一般の食品店で見る限り,お米は安いと思いますが,麺は乾麺にしろ,生麺にしろ,いい値段がします。従って,「麺」を主にラーメン店なり日本食堂なりを開こうとする人は,製麺の方法の研究と製麺機械の購入が不可欠になると思います。
焼き鳥
焼き鳥はパリなどでは昔から人気の高い日本料理メニューです。なぜこれまでドイツで広まらなかったのか不思議ですが,近年やっと知り渡ってきたようです。欧州人は手があまり器用ではないので,鶏をさばくことができないことが日本人の焼き鳥屋さんの成功の鍵だと思っていましたが定かではありません。いずれにしても,多くのドイツ人にとって焼き鳥とは鶏肉のみです。レバーを食べる人たちは結構いますが,他の内臓は一般的ではないとお考えください。
また,日本人の客が多いところでは,焼き鳥と飲み屋,という組み合わせが受けるかも知れませんが,ドイツ人にとっては焼き鳥は食事のメニューです。それで,客層や立地場所に合せて,焼き鳥をスペシャリティーとした日本食レストランか,飲み屋の雰囲気を押し出した居酒屋風にするか,よく考える必要があります。
ビール王国ドイツだから絶対焼き鳥は受けるはず,というアプローチにはなりません。たしかにドイツ人のビール消費量は多いですが,彼らは肴(つまみ)なしで延々と飲むのです。
余談ですが,そんな彼らにもっと飲ませて儲ける方法があります。ちょっと塩分を利かせた,酒のつまみを無料でサービスするのです。昔,アメリカのターバン(飲み屋)に行った折,いつも山盛りの無料ポップコーンがテーブルに置かれ,喜んで無料つまみをどんどんもらったら,喉が渇いて結局ビールをたくさん飲んでしまった記憶があり,思い出すたびに「頭いいなぁ」と思うのです。
鶏は安いと思います。それで,鶏を早くさばけるスタッフが収益を大きく左右するかも知れません。競合者は少ないと思います。多くの鶏肉が消費されていますが,簡易食堂やテイクアウト用の鶏肉といえば一羽ごとブロイラーで直火焼きした鶏しかありませんから。いずれにしても,スシ・ラーメン・ヤキソバと比較すると,まだアジア人の逆輸入イミテーションに侵されていない料理とも言えそうです。
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